【龍空】秋になると食べたくなるさつまいも――そのルーツをたどる
秋の空気が少しずつ冷たくなる頃、ふと食べたくなるのが「さつまいも」。焼き芋の甘い香りが漂うと、どこか懐かしい気持ちになります。ほくほくとした食感と自然な甘みは、まさに秋の味覚の代表。けれども、このさつまいも、もともと日本の植物ではないことをご存じでしょうか。
さつまいものルーツをたどると、原産地は中南米にあります。およそ5000年前にはすでに栽培されていたとされ、インカ文明の時代には重要な食料として広まっていました。その後、16世紀にヨーロッパ人が新大陸を発見した「大航海時代」に、さつまいもは世界各地へと旅を始めます。ポルトガル人やスペイン人の手によってフィリピン、中国などアジアにも伝わり、日本に入ってきたのは17世紀初頭のことでした。
最初に日本へ伝わったのは、現在の沖縄県にあたる琉球。そこから九州の薩摩(鹿児島県)に渡り、「薩摩芋」と呼ばれるようになったのです。薩摩藩ではやせた土地でもよく育ち、飢饉の際にも人々の命を救ったことから、さつまいもは「救荒作物」として全国に広まりました。特に江戸時代には、飢饉に強い作物として庶民の生活を支え、やがて各地で品種改良が進みました。
今日では、「紅はるか」「安納芋」「シルクスイート」など、甘さや食感の異なる品種が数多く登場しています。焼き芋だけでなく、スイートポテトや大学芋、天ぷらなど、さまざまな形で愛される理由もそこにあります。さらに、栄養価の高さも見逃せません。ビタミンCや食物繊維が豊富で、美容や健康にも良いとされ、現代でも人気の高い食材です。
秋になると自然と恋しくなるさつまいも。その背景には、長い歴史と人々の知恵、そしてどんな時代にも寄り添ってきた温もりがあります。ひとくち食べるたびに、南米から日本へ渡ってきたこの芋の旅路を、少しだけ思い浮かべてみてはいかがでしょうか。

