【龍空】蛇足──ついつい余計なことをしてしまう私たち
「やらなくてもいいことを、つい付け足してしまって失敗する」。誰にでも一度は経験のあることではないでしょうか。まさに“蛇足”。物語の中のように、完成した絵に蛇を描き足して台無しにしてしまうような出来事は、日常の中にもひっそり潜んでいます。
たとえば、仕事の資料をほぼ完璧に仕上げたのに、「もう少し分かりやすくしよう」と細かい装飾を加えた結果、逆に読みづらくなってしまった。料理が完成しているのに、「もっと美味しくなるかも」と調味料を足して味がぼやけてしまった。そんな小さな後悔を繰り返すうちに、私たちは「余計な一手」の影響の大きさに気づいていきます。
なぜ人は蛇足をしてしまうのでしょうか。その背景には、「より良くしたい」という純粋な気持ちがあります。完璧を求める心、相手に喜んでほしい気持ち、もっと価値を付けたいという欲張りな願望。それらが重なると、つい“最後のひと押し”を加えてしまうのです。しかし、このひと押しが良い方向へ進むとは限りません。むしろ完成したものに手を加えるほど、大切な本質がぶれてしまう危険さえあります。
では、蛇足を避けるためにどうすればよいのでしょうか。ひとつの鍵は「適切なところで手を止める勇気」を持つことです。自分が「もう十分かもしれない」と感じたら、一度深呼吸して距離を置く。作品でも仕事でも、一歩下がって眺めてみると、最初の熱が冷め、本当に必要なものだけが浮かび上がってきます。
また、「これを加えることで何が良くなるのか?」と自問する習慣も有効です。意図が明確な改善なら良い方向に働きますが、なんとなく不安だから…という曖昧な理由ならば、思い切ってその手を引くほうが賢明です。
私たちはつい飾りたくなり、付け足したくなる生き物です。でも時には、“何もしない勇気”こそが物事を最も美しく保つ秘訣なのかもしれません。

