【曽我部キキョウ】忘れたけれど、大切にしていなかったわけじゃない
お別れをしてからずいぶん経つのに、
急に元カレから連絡がきた。
「オレのことなんて、もう忘れた?」
そんな問いと共に。
もちろん付き合っていたことは覚えている。
けれども、彼の誕生日は覚えていない。
あんなに一生懸命祝ったのに?
このような状況になると
元カレは、わたしにとって
あんまり大切じゃなかったんだろうか、と
思ってしまうこともあるでしょう。
同じようなことは、恋人じゃなくてもあります。
小学校の頃に仲が良かったあの子の名前は?
引っ越しをする前の住所は?
自分のスマホの電話番号は?
忘れるぐらいだから、大して重要じゃなかった、
という言い方をすることもあります。
本当にそうなら、元カレの誕生日も、
自分のスマホの電話番号も
大事ではないのでしょうか。
そんなことはありません。
人間の記憶は、インターネット検索のように
必要なことを
いつでも同じように取り出せる仕組みではありません。
大切だから記憶している、
という面があるにしても、
思い出す機会が減ると、
だんだんと表に出てきにくくなります。
元カレの話を例にとって
どういうことか見てみましょう。
付き合っている当時、
そしておそらく別れた直後、
彼と彼にまつわる事柄は
何かにつけて思い出し、
記憶の表側にいました。
ところが別れてしばらく経ち、
新しい彼ができた後、
頭の中はその新しい彼のことを
考えることが多くなります。
その分、元カレのことを考える機会は
激減するでしょう。
そうすると、元カレに関する記憶を
呼び出すことが少なくなります。
そもそも人の記憶は、
覚えているか、忘れたかの二択ではありません。
よく使う記憶は取り出しやすく、
あまり使わない記憶は取り出しにくくなっています。
そして適切なきっかけがあると、
使っていない記憶がふっと出てきます。
人の記憶は、実際かなり流動的です。
つまり、忘れたという状態は、
記憶がなくなったのではなく
取り出すのが困難な状態なのです。
これは、価値の有無とは関係がありません。
たとえ新しいことに気を取られて、
昔のことを思い出すのが難しくても
過去のその時間が大切ではなかった、
ということにはならないのです。
あのときは確かに存在していて、
その時間は本当に大切だった。
ただ、それは役目を終えて、
脳の奥で静かにたたずんでいるのです。
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